- 行政書士と弁護士の業務範囲の違いがよくわからない
- 行政書士が相談に乗れることは何だろう
- 行政書士が対応できなくて弁護士にしか頼めないことの区別がつかない
行政書士で独立開業を目指す場合、行政書士と弁護士の違いを理解することは依頼者に信頼されるために欠かせません。しかし、行政書士と弁護士の境界は複雑でわかりにくいと感じていませんか?
この記事では行政書士と弁護士の業務範囲や法律相談、代理権、費用の違いを詳しく解説します。記事を読めば行政書士と弁護士の違いが明確になり、行政書士として取り組める業務のビジョンを具体的に描けるようになります。
行政書士と弁護士の大きな違いは争いごとに関わるかどうかです。行政書士はトラブルを防ぐための書類作成を行い、弁護士はすでに起きたトラブルの交渉や裁判に対応します。
行政書士と弁護士の業務範囲の違い

行政書士と弁護士の業務範囲の違いを以下に解説します。
- 行政書士の業務範囲
- 弁護士の業務範囲
行政書士の業務範囲
行政書士は役所に提出する書類の作成や、人々の権利義務に関わる書類作成を専門とする法律家です。行政書士の業務範囲は広く、作成できる書類は1万種類を超えると言われています。企業から個人まで、さまざまな場面で法的な手続きの助けになれます。行政書士が扱う業務は以下のとおりです。
- 建設業や飲食店の営業許可など役所に提出する書類の作成と提出の代理
- 遺言書や契約書、離婚協議書といった権利や義務に関する書類の作成
- 会社のルールを定めた定款や会議の議事録といった事実を証明する書類の作成
- 会社や一般社団法人などを設立する際の手続き
- 外国人の在留資格(ビザ)の取得や更新、日本国籍を取得する帰化申請の手続き
行政書士は書類作成のプロとして、暮らしやビジネスの手続きを支える身近な専門家です。
» 行政書士の仕事内容とは?業務内容から必要なスキルまで解説
弁護士の業務範囲
弁護士は法律に関するあらゆる業務を扱える専門家であり、業務範囲に法律上の制限がありません。弁護士の業務範囲は以下のとおりです。
- 裁判での代理人活動
- 示談交渉や債務整理
- 逮捕された人の弁護活動
- 法律関係の書類作成
- 法律相談やアドバイス
弁護士は当事者間で争いがある事件や裁判手続きなど、行政書士では扱えない業務にも対応できます。法律トラブルの解決に向けて、相談から交渉、裁判まで一貫して対応できる点が弁護士の特徴です。
行政書士と弁護士の法律相談の違い

行政書士と弁護士の法律相談の違いは以下のとおりです。
- 行政書士の法律相談
- 弁護士の法律相談
行政書士の法律相談
行政書士への法律相談はトラブルが起こる前の予防が主な目的です。すでにもめごとになっている事件は法律で定められているため行政書士は相談に乗れません。行政書士が受けられる相談は書類作成や、手続きの代理を前提とした内容に限られています。行政書士の役割は以下のとおりです。
- 営業許可申請書の作成
- 契約書の作成
- 遺産分割協議書の作成
行政書士は書類作成の専門家であり、弁護士に比べて相談料も抑えられるので、暮らしの中の困りごとを気軽に相談できる存在です。
弁護士の法律相談
弁護士の法律相談は扱う内容に法的な制限がなく、当事者同士で争いがあるトラブルも相談できます。弁護士は法律の専門家としてあらゆる法律問題を取り扱うことが認められています。将来的に争いごとになりそうな問題や、すでに裁判になっているような複雑な案件も対応可能です。弁護士には以下の内容が相談できます。
- 相続や離婚に関するトラブル
- 交通事故の示談交渉
- 借金問題の解決
- 刑事事件に関する相談
弁護士に相談することで裁判所が関わる手続きを前提とした、具体的な解決策のアドバイスをもらえます。相談の結果、裁判や交渉が必要になった場合、代理人として手続きを依頼できる強みもあります。
行政書士と弁護士の代理権の違い

行政書士と弁護士の代理権の違いは以下のとおりです。
- 行政書士の代理権
- 弁護士の代理権
行政書士の代理権
行政書士の代理権は主に官公署への手続きや、争いのない事実に関する書類作成に限られています。法律上の争いごとに関する交渉や裁判手続きの代理は、法律で禁止されているためです。行政書士が本人に代わって行える業務は以下のとおりです。
- 許認可申請書類の作成・提出
- 契約書や遺産分割協議書などの作成
- 行政庁への不服申立て
行政書士の代理業務はトラブル解決ではなく、暮らしやビジネスの手続きを円滑に進めるサポートが中心です。
» 行政書士の独占業務を解説!
弁護士の代理権
弁護士は法律の専門家として裁判や交渉といった争いごとを含む、すべての法律事務を扱う権限を持っています。活動範囲はほとんど制限がなく、裁判所で依頼者の代わりに主張したり、トラブルの相手と示談交渉を進めたりできます。弁護士が代理人として行える業務は以下のとおりです。
- 裁判での代理
- 争いごとに関する交渉
- 契約の交渉や契約書の作成・締結
弁護士は法律に関わることであれば場所や相手を問わず、本人の代わりとして幅広く活動できる権限を持っています。
行政書士と弁護士の費用の違い

行政書士と弁護士への依頼費用は、複雑な訴訟案件を扱うことが多い弁護士のほうが費用が高くなる傾向があります。行政書士と弁護士の費用の違いを以下に解説します。
- 行政書士の費用
- 弁護士の費用
行政書士の費用
行政書士に依頼する際の費用は弁護士と比べて比較的安価な傾向にあります。業務内容ごとに料金が決められている場合が多く、事前に費用を把握しやすい点が特徴です。行政書士の費用は相談料と業務ごとの報酬に分かれています。
相談料の相場は1時間当たり5,000~10,000円程度となっています。業務の報酬は作成する書類や手続きの種類により、決まった金額が設定される場合が一般的です。相談料の目安は以下のとおりです。
- 遺言書の作成:10万円前後
- 会社の設立手続き:10万円前後
行政書士は弁護士が扱うような争いごとに関わる案件は扱わないため、費用が抑えられます。ただし、依頼する業務の難易度や作成する書類の量によって金額は変動します。
弁護士の費用
弁護士は裁判や交渉のような複雑な争いごとを扱うため、弁護士への依頼費用は行政書士に比べて高くなる傾向にあります。弁護士の費用は主に以下の項目で構成されます。
- 相談料
- 着手金
- 報酬金
- 実費・日当
相談料は弁護士に相談する際に支払う費用で、30分当たり5,000~10,000円程度が目安です。着手金は正式に仕事を依頼する際に支払うお金です。着手金は最低でも10万円以上かかることが多く、請求金額により変動します。
報酬金は事件が解決して利益が得られた場合に支払うお金で、得られた利益の10~20%程度が相場です。
【ケース別】行政書士と弁護士の違い

行政書士と弁護士の違いを具体的なケースごとに以下に解説します。
- 相続問題
- 債務整理
- 自己破産や任意整理の手続き
- 過払金の回収
相続問題
相続問題では相続人の間で争いの有無によって、依頼する専門家が異なります。相続人全員の意見がまとまっていて、円満に手続きを進めたい場合は行政書士に依頼が可能です。行政書士は争いがなく、相続人全員が遺産の分け方に納得している場合に以下の手続きを手伝います。
- 相続人調査
- 財産調査
- 遺産分割協議書の作成
ただし、遺産の分け方でもめている、連絡が取れない相続人がいるなどのトラブルがある場合は、弁護士への依頼が必要です。家庭裁判所での調停や審判、遺言の無効を主張する訴訟などは、弁護士だけが扱える業務です。
債務整理
債務整理はお金を貸している人(債権者)との交渉が必要なので、弁護士への依頼が一般的です。行政書士も一部の書類作成はできますが、交渉する権利(代理権)がないため依頼者の代理人にはなれません。行政書士が債務整理において行える業務は以下のとおりです。
- 内容証明郵便の作成
- 自己破産・個人再生の申立書作成
内容証明郵便とは、差出人・宛先・文書の内容・差出日を郵便局が証明するサービスです。債務の督促など、重要なやり取りの証拠を残したいときに利用されます。
弁護士は債務整理の依頼の受任通知書類を債権者に送り、債権者への直接の取り立てを止められる点が行政書士との大きな違いです。弁護士は書類作成に加えて交渉や和解契約の締結まで、債務整理に関するすべての業務を行えます。
自己破産や任意整理の手続き

自己破産や任意整理の手続きは弁護士への依頼が一般的です。行政書士は自己破産や任意整理の手続きを代理人として行えません。自己破産や任意整理の手続きは裁判所への申し立てやお金を貸している側(債権者)との交渉を必要とします。弁護士は依頼者の代理人として、以下の手続きをすべて代行できます。
- 自己破産申立て
- 裁判官との面談同席
- 債権者との直接交渉
- 和解契約の締結
自己破産や任意整理の手続きは法律により弁護士や司法書士(一定の範囲に限り対応可能)の独占業務と定められています。行政書士が代行すると法律違反(非弁行為)に問われる可能性があります。
過払金の回収
過払金の回収は弁護士に依頼する場合が一般的です。過払金の請求ではお金を貸した会社が素直に支払いに応じず、交渉や裁判に発展するケースも少なくありません。行政書士は交渉権や訴訟代理権がないため、過払い金の回収では以下の書類作成の代理業務に限って対応が可能です。
- 過払金返還請求書
- 内容証明郵便
過払金返還請求書を送った後に相手の会社が支払いを拒否した場合、行政書士は代理人として交渉や裁判の手続きを進められません。弁護士であれば書類作成から交渉、裁判まで一貫して任せられます。交渉が難航する可能性を考慮すると、過払金の回収は弁護士への依頼が安心です。
行政書士と弁護士の選び方

行政書士と弁護士の選び方は争いの有無で判断するケースが一般的です。行政書士に依頼するべきケースと、弁護士に依頼するべきケースを以下に紹介します。
- 行政書士に依頼するべきケース
- 弁護士に依頼するべきケース
行政書士に依頼するべきケース
行政書士への依頼がおすすめなケースは役所への手続きや、当事者間で争いになっていない法律問題に関する書類作成業務です。行政書士は書類作成のプロであり、複雑な手続きをスムーズに進められます。行政書士に依頼するべきケースは以下のとおりです。
- 許認可申請
- 協議書作成
- 内容証明・契約書作成
- 相続人・財産調査
行政書士に依頼すると弁護士よりも費用を抑えられるケースが多く、法的な争いがない状況であれば適切なサポートが受けられます。
弁護士に依頼するべきケース
弁護士に依頼するべきケースは法律に関するトラブルがすでに起こっている、または起こりそうな場合です。弁護士は法律の専門家として依頼者の代理人となり、相手方と直接交渉したり、裁判所で手続きを進めたりできます。以下のケースでは弁護士への依頼がおすすめです。
- 相手ともめていて話し合いだけでは解決が難しい
- 裁判や調停など裁判所での手続きが必要になった
- 相手との話し合い(示談交渉)をすべて任せたい
- 自己破産や個人再生など裁判所を通して借金を整理したい
- 家族が逮捕されるなど刑事事件に関わってしまった
- 将来のトラブルを防ぐために専門的なアドバイスを受けたい
当事者同士での解決が難しく、法的な手続きが必要な場合は弁護士への依頼が適切です。
行政書士と弁護士の違いに関するよくある質問

行政書士と弁護士の違いに関する以下のよくある質問に回答します。
- 行政書士に依頼できる法律相談の具体例は?
- 弁護士費用はどれくらいかかる?
- 離婚問題は行政書士と弁護士のどちらに相談するべき?
行政書士に依頼できる法律相談の具体例は?
行政書士は書類手続きやトラブル予防に関する相談を得意としており、役所への手続きや暮らしに関わる書類作成や相談が可能です。行政書士に依頼できる法律相談例を以下に紹介します。
- 相続に関する書類作成
- 営業許可申請
- 会社設立手続き
- 契約書作成
- 離婚時の合意書作成
- 内容証明郵便の作成
- ビザ申請
遺言書や遺産分割協議書、飲食店の営業許可申請、会社の設立手続きなど、さまざまな書類作成の相談が行政書士の業務範囲です。トラブルに発展する前の予防策として、行政書士への相談を活用できます。
弁護士費用はどれくらいかかる?

弁護士に依頼するときの費用は相談内容や依頼する事務所によって異なります。弁護士に依頼する際にかかる費用の内訳と目安は以下のとおりです。
- 法律相談料
- 30分当たり5,000~10,000円程度が相場です。初回は無料で相談できる弁護士事務所もあります。
- 着手金
- 依頼時に支払うお金で解決により得られる利益の2~8%が目安です。一般的に最低でも10万円以上かかります。
- 報酬金
- 問題の解決後に支払う成功報酬で得られた利益の4~16%が目安です。
- 日当・実費
- 弁護士が裁判所へ出向く際の日当(1日5~10万円程度)や交通費、手続きに必要な印紙代などです。
弁護士の仕事は相談を受けるだけでなく、裁判などの手続きも進めるため各段階で費用が発生します。料金体系は弁護士事務所ごとに決められているため、依頼先によって金額に差が生じます。
離婚問題は行政書士と弁護士のどちらに相談するべき?
離婚問題の相談先は夫婦間の状況によって行政書士と弁護士を使い分けることがおすすめです。行政書士と弁護士では、離婚問題で対応できる業務の範囲が大きく異なります。夫婦間で争いがない場合は行政書士、もめている場合やもめそうな場合は弁護士に相談しましょう。
行政書士への依頼は夫婦間で離婚や離婚条件について争いがなく、話し合いで合意できている場合が該当します。決まった内容を離婚協議書や公正証書といった法的な書面にしたいときに依頼できます。
弁護士への依頼は相手が離婚を拒否している場合や、財産分与や親権などで揉めている場合におすすめです。相手との交渉や、離婚調停・裁判の代理人を依頼できるのは弁護士のみです。DVやモラハラが関係する場合や、少しでも争いに発展しそうな場合は、初めから弁護士に相談しましょう。
行政書士と弁護士は仕事の目的が違う

行政書士と弁護士は業務範囲や役割が明確に異なり、それぞれに専門分野を持つ法律家です。行政書士はトラブルを未然に防ぐ書類作成や手続きに関する相談を行い、弁護士はすでに起きたトラブルの交渉や裁判に対応します。弁護士は業務範囲に制限がなく、裁判や示談交渉の場で代理人となれる唯一の資格を保有しています。
行政書士として活動する際は自身の業務範囲を正しく理解し、対応できない案件は弁護士へつなぐといった連携が必要です。行政書士と弁護士の違いを把握し、資格取得に向けて取り組みましょう。
» 法律資格の種類や取得メリットを徹底解説!
行政書士で独立を目指す方にとって、他士業との業務範囲の違いを理解しておくことは、開業後のミスを防ぐうえでも重要です。特に弁護士との違いは試験で頻出事項のため、今のうちに押さえておきましょう。


コメント