「行政書士は食えない」と言われることがあります。
しかし、この言葉だけでは何が問題なのか分かりません。
仕事が一件もないのか。
売上はあるが利益が残らないのか。
利益は出ているが生活費に届かないのか。
同じ「食えない」でも、止まっている場所は違います。
行政書士で生活できるかを判断するときは、資格全体の評判ではなく、自分の事務所の売上・利益・生活費へ分解してください。
「行政書士は食えない」を4段階に分ける
まず、「食えない」という状態を次の4段階に分けます。
- 仕事がない
- 仕事はあるが売上が小さい
- 売上はあるが利益が残らない
- 利益はあるが生活費を賄えない
このどこにいるかで、直す場所が変わります。
仕事がない人に必要なのは、経費削減より先に受任導線の確認かもしれません。
逆に売上があるのに利益が残らないなら、受任件数を増やす前に単価・工数・固定費を見直した方がよい場合があります。
「もっと仕事を取る」だけを答えにしないでください。
行政書士の収入は、まず売上の構造から見る
独立した行政書士の売上を単純化すると、次のように考えられます。
売上 = 受任件数 × 1件あたりの売上
さらに、受任件数は、
相談件数 × 受任率
に分けられます。
つまり、売上が小さいなら、
- 相談自体が少ない
- 相談は来るが受任されない
- 受任単価が小さい
- 受けられる案件数が少ない
のどこかを確認します。
仕事がない状態そのものについては、行政書士で仕事がないときの工程診断で詳しく整理しています。
売上が同じでも、利益は同じではない
行政書士として生活できるかを見るなら、売上だけでは足りません。
売上から事業に必要な支出を引いて、どれだけ残るかを見る必要があります。
例えば、
- 行政書士会費
- 事務所費
- 通信費
- 交通費
- 広告費
- 業務サービス利用料
- 外注費
- その他の必要経費
があります。
売上が増えていても、それ以上に経費が増えれば生活へ回せる金額は増えません。
1件の売上ではなく「1件に何時間使ったか」まで見る
もう一つ重要なのが工数です。
同じ10万円の案件でも、10時間で完了する案件と、50時間かかる案件では事業としての意味が違います。
さらに、
- 事前調査
- 依頼者との打ち合わせ
- 書類作成
- 証明書等の収集
- 行政機関への確認
- 補正対応
- 移動
まで含めると、見た目の報酬額だけでは採算を判断できません。
「いくらで受けたか」と同時に、「何時間使ったか」を記録してください。
単価を上げれば解決するとは限らない
利益が少ないと、「もっと高い業務を受ければよい」と考えたくなります。
しかし、単価の高い案件ほど、
- 専門知識が必要
- 処理期間が長い
- 責任が重い
- 追加対応が多い
- 受任までの営業期間が長い
場合もあります。
逆に、単価が比較的小さくても、処理が標準化され、継続・紹介につながる業務なら事業として成立することがあります。
単価だけではなく、単価・工数・受任頻度をセットで見てください。
「食えるか」は生活費によっても変わる
同じ利益でも、それで生活できるかは人によって変わります。
必要な生活費が月20万円の人と、月40万円必要な人では、行政書士事業へ求める利益も違います。
住宅費、家族構成、借入、保険、教育費などによって必要額は変わります。
したがって、
行政書士で月○万円稼げるなら食える。
という一つの基準では決められません。
自分が毎月必要な生活費を出し、事業利益がそこへ届く構造かを確認します。
開業直後から行政書士収入だけで生活する必要はない
行政書士として開業したからといって、最初から行政書士収入だけで生活しなければならないわけではありません。
別の仕事を続けながら受任を増やす方法もあります。
副業として始める場合は、行政書士業務へ使える時間は減ります。
その代わり、生活費を行政書士事業からすぐに回収しなくてもよいという利点があります。
専業か副業かは、肩書きではなく、生活費と事業成長のどちらをどう支えるかで判断します。
副業としての条件は、行政書士は副業でできる?会社員のまま登録・受任する条件で確認してください。
固定費が小さいほど、必要な売上も小さくなる
行政書士事業を維持するために必要な売上は、固定費でも変わります。
例えば、高額な事務所、広告、営業支援サービスなどを契約すれば、毎月必要な売上も増えます。
反対に、自宅事務所などを使って固定費を抑えられるなら、損益分岐点も下げられます。
もちろん、安ければよいわけではありません。
依頼者対応や書類管理に必要な機能は確保します。
固定費は、「行政書士らしい事務所を作るため」ではなく、受任・処理に必要な機能へ使ってください。
毎月新規顧客だけを探す構造は不安定になりやすい
行政書士業務には単発の仕事も多くあります。
そのため、新規受任だけに依存すると、毎月ゼロから営業を始める状態になりやすくなります。
扱う業務によっては、
- 更新
- 変更届
- 追加許可
- 周辺手続
- 紹介
につながる場合があります。
すべてを継続契約にする必要はありません。
ただし、1件の仕事が終わった後に何が起こるかまで把握しておくと、収益構造を作りやすくなります。
行政書士の「平均年収」だけで開業判断しない
行政書士の収入について調べると、平均年収や高収入事例が紹介されていることがあります。
しかし、独立行政書士、勤務者、兼業者では働き方が違います。
さらに、業務分野、地域、経験年数、事務所規模でも数字は変わります。
そのため、出典や調査対象が分からない「行政書士の平均年収○万円」を、自分の事業計画へそのまま使わない方が安全です。
平均値から自分の収入を予測するのではなく、自分の相談数・受任率・単価・工数・固定費から計算してください。
行政書士で生活できる状態を式にすると分かりやすい
独立行政書士として生活できる状態を単純化すると、次のように考えられます。
相談数 × 受任率 × 平均単価 = 売上
そこから、
売上 − 事業経費 = 事業として残る金額
さらに、その金額が、自分の生活を維持するために必要な額を継続して上回るかを確認します。
この途中のどこかが弱ければ、その部分を修正します。
「食えない」と感じたときに見る7つの数字
事業の状態を確認するなら、少なくとも次の数字を記録します。
- 問い合わせ件数
- 相談件数
- 受任件数
- 平均受任単価
- 案件ごとの工数
- 毎月の固定費・経費
- 生活へ回せる金額
さらに開業直後なら、手元資金であと何か月維持できるかも確認します。
資金管理については、行政書士開業後に資金が尽きる前に確認することへ進んでください。
「食えない」なら、全部を変えず一番弱い工程を直す
収入が少ないと、業務分野、価格、ホームページ、営業方法を全部変えたくなることがあります。
しかし、一度に変えると何が効いたのか分かりません。
例えば、
- 相談が少ないなら認知を改善する
- 相談はあるが受任されないなら提案・見積を見直す
- 受任はあるが利益が低いなら単価・工数を見直す
- 利益はあるが生活できないなら固定費・生活費・件数を見直す
と分けます。
一番弱い工程を一つ修正し、その後の数字が変わったかを再観測してください。
行政書士を続けること自体を目的にしない
行政書士試験に合格し、登録し、開業した後だと、「ここまでやったから続けなければ」と感じることがあります。
しかし、行政書士事業は資格取得の続きではありません。
事業として続ける意味があるかを、現在の数字から判断します。
専業から副業へ変える。
固定費を下げる。
業務分野を絞る。
別の仕事へ戻る。
必要なら廃業する。
複数の選択肢があります。
「食える行政書士になること」だけを目的にせず、自分の生活と事業を両方維持できる働き方を選んでください。
まとめ|行政書士が食えるかは、資格ではなく収益構造で判断する
行政書士は食えるのか、食えないのか。
この問いに、一つの平均年収や成功例だけで答えることはできません。
- 相談数を確認する
- 受任率を確認する
- 平均単価を確認する
- 案件ごとの工数を確認する
- 固定費・経費を引いて利益を見る
- 生活費を賄える状態か確認する
- 最も弱い工程だけを修正する
「行政書士だから食える」「行政書士だから食えない」ではなく、自分の事務所がどんな収益構造になっているかで判断してください。
行政書士の仕事内容全体と専門分野へ戻る場合は、行政書士の仕事内容と専門分野の決め方を確認してください。