行政書士の将来性を考えるとき、「AIに仕事を奪われるのか」という問いだけでは判断できません。
実際に起きている変化として、行政手続のオンライン化は進んでいます。
2026年施行の改正行政書士法でも、行政書士についてデジタル社会への対応に努めることが明記されました。
つまり、行政書士の仕事は「紙の申請書を代わりに作る仕事」のままではありません。
これから見るべきなのは、行政書士という資格がなくなるかではなく、業務のどの工程が自動化・オンライン化され、どの工程に専門家としての価値が残るかです。
行政手続のオンライン化は今後も進む
行政手続のデジタル化は、将来の可能性ではなく、すでに進んでいる変化です。
デジタル庁は、自治体の行政手続についてオンライン化を進め、住民の入力負担と行政側の審査負担を減らす取組を進めています。
次期オンライン申請サービスでは、行政が保有する情報を申請フォームへ反映したり、補正連絡や通知書をオンラインで送ったりして、手続をオンライン上で完結させる方向が示されています。
2026年9月以降には本格運用開始が予定されています。
こうした仕組みが広がれば、
- 窓口へ書類を持参する
- 同じ基本情報を何度も転記する
- 単純な様式入力を代行する
といった作業の一部は、以前より価値が下がる可能性があります。
「申請書へ文字を入れること」だけを商品にするほど、デジタル化の影響を受けやすくなります。
2026年の行政書士法もデジタル社会への対応を求めている
2026年1月1日に施行された改正行政書士法では、行政書士制度にもデジタル化への対応が明確に組み込まれました。
日本行政書士会連合会は、今回の改正について、士業法で初めて「デジタル社会への対応」の努力義務が規定されたと説明しています。
これは、デジタル化から行政書士を守るという制度ではありません。
むしろ、行政書士自身もデジタル化された行政手続へ対応することを前提に制度が動いていると考えた方がよいでしょう。
紙の手続が残ることを期待するのではなく、電子申請を前提に業務を再設計する必要があります。
AIで減りやすいのは「資格」ではなく定型工程
生成AIについては、現時点で「行政書士の仕事が何%なくなる」といった確実な将来予測はできません。
一方で、文章生成、情報整理、下書き、定型的なチェックなど、これまで人が行っていた作業の一部をAIで補助できる場面は増えています。
そのため、行政書士業務でも、
- 定型文の作成
- 一般的な制度説明の下書き
- 情報の整理
- 定型書類の入力補助
などは、今後さらに効率化される可能性があります。
ただし、これは「行政書士資格が不要になる」という話とは別です。
自動化されやすい工程と、法律上資格者が担う業務、個別案件で人が判断する工程を分けて考えてください。
残りやすいのは「何を書けばよいか」を決める前の工程
申請フォームへ入力する作業が簡単になっても、すべての依頼者が自分だけで手続を完了できるとは限りません。
実務では、書類作成の前に確認することがあります。
- 依頼者が最終的に何を実現したいのか
- どの許認可が必要なのか
- 要件を満たしているか
- 不足する事実・資料は何か
- 複数の制度をどの順番で進めるか
- 申請前に解決すべき問題がないか
こうした工程では、単に申請欄を埋める以上の判断が必要になります。
入力が自動化されるほど、「そもそも何を申請するのか」を整理する部分の価値が相対的に重要になります。
制度を説明するだけでなく、個別事情へ当てはめる
一般的な制度説明だけなら、行政機関のWebサイトやAIから情報を得やすくなっています。
そこで行政書士側に残る価値は、一般論を繰り返すことではありません。
例えば、
- この依頼者は要件を満たすのか
- この資料で事実を証明できるのか
- この事業計画で申請条件に適合するのか
- どの行政手続から先に進めるのか
- 別の専門家との連携が必要か
といった個別案件への適用です。
「制度を知っている」から、「依頼者の事実を制度へ接続できる」へ価値を移す必要があります。
複数の手続をつなぐ役割も残る
実際の事業や生活上の目的は、一つの申請だけで完了するとは限りません。
例えば事業を始める場合でも、許認可、法人、土地利用、契約、外国人在留、他士業の手続などが組み合わさることがあります。
このとき重要になるのは、一枚の書類を作る能力だけではありません。
依頼者の目的から必要な手続を分解し、自分が扱う部分と他士業・行政機関へ接続する部分を整理することです。
手続がデジタル化しても、「何をどの順番で行うか」という設計まですべて自動的に解決されるとは限りません。
電子申請が増えても、行政書士の役割がゼロになるとは限らない
電子申請が普及すると、「本人が直接申請できるなら行政書士はいらない」と考えることがあります。
確かに、本人が自力で完了できる単純な手続では、専門家へ依頼する必要性が下がることは考えられます。
これは行政書士側が受け入れるべき変化です。
一方で、本人申請が可能であることと、すべての案件で専門家が不要であることは同じではありません。
案件の複雑さ、事業規模、許認可の重要性、不許可時の影響、依頼者が投入できる時間によって、専門家へ外部化する意味は変わります。
将来性を見るなら、「本人でもできるか」ではなく、「依頼者が専門家へ外部化する価値がどこにあるか」を確認します。
2026年改正では特定行政書士の業務範囲も広がった
行政書士の業務がすべて縮小方向に動いているわけでもありません。
2026年施行の改正行政書士法では、特定行政書士が扱える行政不服申立ての範囲が拡大されました。
改正後は、行政書士が実際に申請書を作成した案件だけでなく、行政書士が作成することができる官公署提出書類に係る許認可等について、一定の不服申立てを扱えるようになっています。
行政手続がデジタル化する一方で、行政処分後の権利利益の救済まで行政書士制度が拡張されている面もあります。
詳しくは、特定行政書士の業務範囲と法定研修で確認してください。
将来性を考えるなら、専門分野より先に「工程」を見る
将来性がありそうな業務分野を探して、流行している分野へ移るだけでは十分ではありません。
同じ許認可業務でも、
- 定型入力が中心なのか
- 要件判断が複雑なのか
- 事前の事実整理が多いのか
- 行政との調整が必要なのか
- 複数制度を組み合わせるのか
- 継続的な変更・更新があるのか
によって、デジタル化の影響は変わります。
業務名ではなく、自分がその案件のどの工程へ価値を出すのかを見る方が、将来性を判断しやすくなります。
AIを避けるのではなく、自分の業務工程へ組み込む
AIで効率化できる工程があるなら、行政書士側も使わない理由はありません。
例えば、情報整理や文章の下書きなど、補助的に使える場面はあります。
ただし、生成された内容をそのまま依頼者の案件へ使うのではなく、根拠となる法令・行政機関の公式情報・個別事実を確認する必要があります。
行政書士として依頼を受ける以上、AIが出力した内容へ責任を移すことはできません。
AIを「競争相手」として見るだけでなく、自動化できる工程を自分から自動化し、人が判断すべき工程へ時間を移す道具として考えます。
行政書士の将来性を判断する5つの観測点
「行政書士は将来なくなるか」と予想するより、次の5点を継続的に観測した方が実務的です。
- 扱う行政手続がどこまでオンライン化されたか
- 定型入力・書類作成のうち何が自動化されたか
- 依頼者が専門家へ外部化している工程は何か
- 制度改正によって業務範囲がどう変わったか
- 自分の受任理由が「作業代行」以外にあるか
この5点を見れば、自分の業務が変化に対応できているかを確認できます。
まとめ|行政書士の将来性は「資格が残るか」ではなく価値を出す工程で考える
行政手続のオンライン化は進んでいます。
AIによって効率化できる作業も増えています。
その変化を前提にすれば、単純な転記や定型作成だけを仕事の中心にすることは難しくなっていくと考えられます。
一方で、行政書士制度そのものも2026年に改正され、デジタル社会への対応や特定行政書士の業務拡大が盛り込まれました。
- 定型作業は自動化する
- 依頼者の事実と制度を接続する
- 必要な手続を設計する
- 説明・調整・他士業連携へ価値を移す
- 制度とデジタル環境の変化を継続して観測する
行政書士の将来性を、AIに勝てるかどうかで考えないでください。AIや電子申請で不要になる工程を手放し、それでも依頼者が外部化したい工程へ職能を移せるかで判断します。
行政書士の仕事内容全体と専門分野の選び方へ戻る場合は、行政書士の仕事内容とは?できること・できないことと専門分野の決め方を確認してください。